オリジナル創作小説に関するあれこれを書き連ねる
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「……」
午後、昼下がり。
機械工学の本に、ちょっと気になる記述があったから、カルデラにも意見を訊いてみよう――と思って、彼の元を訪れたのだが。
青年はひとり、古びた壮麗な装飾の本に読み耽っていた。
その熱心さときたら、近寄るレティシアに気づかないほど。
(……べ、べつに、いいですわ)
構ってほしいとかそういうのではないので、べつにいい。
気になる記述だから、意見が訊きたいというだけで、べつに分からないところとかではないのだ。
……分からないところ、とかではないのだ……。
(それにしても、ほんとうに気づいていないのでしょうか?)
うしろからこう、わっ!ってやったら、驚くだろうか。
レティシアは両腕を持ち上げ、そろそろうしろから忍び寄る。
「魔法書デスヨ?」
「きゃあ!」
青年が突如振り向いたので、レティシアはびっくりして飛びずさる。カルデラはキシシと笑った。レティシアは驚かさないでください、と憤慨する。カルデラはだってレティシアサンが近づいて来たんだもんよ、とおもしろがる。
レティシアはむうと頬をふくらませながら、それでも興味をひかれてカルデラの持つ魔法書を覗き込む。
見たことのない言語だ。
(よ、読めませんわ……)
今まで読めなかった本などないのに。レティシアはショックを受ける。
「俺様が書いたんだ。呪文の辞典みたいなもんだ。誰にでも使いやすいってのがウリでベストセラーになってな、最近見つけたんだよ。いやー懐かしーな」
「は、はあ……」
「レティシアサンも魔法とか興味ある? 魔法少女とか憧れてるんデスカ?」
「そっ、そんな子どもっぽい趣味ではありません!」
「レティシアサンもたった一つの望み、俺に使って魔法少女になっちゃうのかなあ……レティシアサンのソウルジェム青っぽいしなあ。かわいそうに。大丈夫、俺にしときゃレティシアサンを魔女なんかにはさせないですよ」
「な、なにを言っているのですか?」
レティシアは何が何だか分からないというように首を傾げる。
「ま、簡単だぜ、こんなん。つーか、ただのゲルマン語だし。読みさえ覚えて精霊に好かれれば使えるんだ。
どれ、ひとつ、使ってやんよ」
長い人差し指をぴっとレティシアに突き付ける。レティシアはとっさにぎゅっとまぶたを閉じる。
「――イッヒ=リーベ=ディッヒ」
詠唱が、終わる。てっきり何か魔法が飛んでくると思っていたレティシアは、何も起こらないのでぱちぱち目を瞬かせる。
「なんつってね」
カルデラはいつものとおり、にやりと笑った。
レティシアはしばらくの間ぽかんとしていたが、数瞬経って、いつものとおり、からかわれたのだろうと思い当たる。
レティシアは、魔法はさっぱりだ。
だから、何かそちらの言語で、はかだとかあほだとか、とにかくそのような聞くに耐えないことを言ってのけたのだろう。
それが具体的になんだったのかは分からないが。
(ぜったい、ぜったい馬鹿にされましたわ……!)
レティシアが目を吊り上げてき、とカルデラをにらむと、青年はいつものとおり、にやりと笑ったのだった。
少女がその呪文の意味を知るのは、そのずっとあとのこと。
午後、昼下がり。
機械工学の本に、ちょっと気になる記述があったから、カルデラにも意見を訊いてみよう――と思って、彼の元を訪れたのだが。
青年はひとり、古びた壮麗な装飾の本に読み耽っていた。
その熱心さときたら、近寄るレティシアに気づかないほど。
(……べ、べつに、いいですわ)
構ってほしいとかそういうのではないので、べつにいい。
気になる記述だから、意見が訊きたいというだけで、べつに分からないところとかではないのだ。
……分からないところ、とかではないのだ……。
(それにしても、ほんとうに気づいていないのでしょうか?)
うしろからこう、わっ!ってやったら、驚くだろうか。
レティシアは両腕を持ち上げ、そろそろうしろから忍び寄る。
「魔法書デスヨ?」
「きゃあ!」
青年が突如振り向いたので、レティシアはびっくりして飛びずさる。カルデラはキシシと笑った。レティシアは驚かさないでください、と憤慨する。カルデラはだってレティシアサンが近づいて来たんだもんよ、とおもしろがる。
レティシアはむうと頬をふくらませながら、それでも興味をひかれてカルデラの持つ魔法書を覗き込む。
見たことのない言語だ。
(よ、読めませんわ……)
今まで読めなかった本などないのに。レティシアはショックを受ける。
「俺様が書いたんだ。呪文の辞典みたいなもんだ。誰にでも使いやすいってのがウリでベストセラーになってな、最近見つけたんだよ。いやー懐かしーな」
「は、はあ……」
「レティシアサンも魔法とか興味ある? 魔法少女とか憧れてるんデスカ?」
「そっ、そんな子どもっぽい趣味ではありません!」
「レティシアサンもたった一つの望み、俺に使って魔法少女になっちゃうのかなあ……レティシアサンのソウルジェム青っぽいしなあ。かわいそうに。大丈夫、俺にしときゃレティシアサンを魔女なんかにはさせないですよ」
「な、なにを言っているのですか?」
レティシアは何が何だか分からないというように首を傾げる。
「ま、簡単だぜ、こんなん。つーか、ただのゲルマン語だし。読みさえ覚えて精霊に好かれれば使えるんだ。
どれ、ひとつ、使ってやんよ」
長い人差し指をぴっとレティシアに突き付ける。レティシアはとっさにぎゅっとまぶたを閉じる。
「――イッヒ=リーベ=ディッヒ」
詠唱が、終わる。てっきり何か魔法が飛んでくると思っていたレティシアは、何も起こらないのでぱちぱち目を瞬かせる。
「なんつってね」
カルデラはいつものとおり、にやりと笑った。
レティシアはしばらくの間ぽかんとしていたが、数瞬経って、いつものとおり、からかわれたのだろうと思い当たる。
レティシアは、魔法はさっぱりだ。
だから、何かそちらの言語で、はかだとかあほだとか、とにかくそのような聞くに耐えないことを言ってのけたのだろう。
それが具体的になんだったのかは分からないが。
(ぜったい、ぜったい馬鹿にされましたわ……!)
レティシアが目を吊り上げてき、とカルデラをにらむと、青年はいつものとおり、にやりと笑ったのだった。
少女がその呪文の意味を知るのは、そのずっとあとのこと。
PR