オリジナル創作小説に関するあれこれを書き連ねる
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森はみずみずしく、ひんやりと薄暗かった。木漏れ日は少ない。もつれあうように絡んだ枝々の隙間から、わずかばかり翡翠色の光を投げかけるのみ。
時折ささやくように響き渡るは風にゆれるさざめき、まぼろしのような鳥の歌声。
ぽっかり空いた地の穴から、一匹の栗鼠があたりをうかがうようにちょろりと顔を出した。外に出るなり、ふさふさした尻尾を揺らしながら、あわただしくどんぐりを頬いっぱいに詰め込み始める。
と。
新たに手に取ったどんぐりが、音もなく、まっすぐに空へ吸われていった。
ぱちくりと大きな目を瞬かせ、ほかのどんぐりへ照準を変える。それも一瞬にしてはるか頭上にのぼって行き――そして、見た。地面いっぱいに積みあがった色とりどりの落ち葉が、いっせいに舞い上がって、枯れ枝にくっつくのを。赤に黄色に染め抜かれた葉が緑色に戻るのを。
ついでに頬にためたはずのどんぐりがなくなり、リスは慌てて巣に戻ろうとする。すると掘ったはずの穴倉がもはやない。
翡翠の天蓋がまたひっこみ、冬の枯れ枝へ。そしてまた秋へ。森はめまぐるしくその姿を変えた。
リスはもう、どうしようもなく身をこわばらせる。
「おやおや。歪に巻き込まれたものがいるよ」
ふとその体を何かにつままれる。
「――安心するがいい。この時代も、きっと、おまえには住みよいだろうから」
大きな体のへんな生き物は、何もせずリスを地に下ろしてやると、すたすたとどこかへ行ってしまう。
リスはしばらく呆然と硬直していたが、やがてまた、地を踏みしめちょろちょろと走り出す。
森はすでに、元の静寂を取り戻していた。
時折ささやくように響き渡るは風にゆれるさざめき、まぼろしのような鳥の歌声。
ぽっかり空いた地の穴から、一匹の栗鼠があたりをうかがうようにちょろりと顔を出した。外に出るなり、ふさふさした尻尾を揺らしながら、あわただしくどんぐりを頬いっぱいに詰め込み始める。
と。
新たに手に取ったどんぐりが、音もなく、まっすぐに空へ吸われていった。
ぱちくりと大きな目を瞬かせ、ほかのどんぐりへ照準を変える。それも一瞬にしてはるか頭上にのぼって行き――そして、見た。地面いっぱいに積みあがった色とりどりの落ち葉が、いっせいに舞い上がって、枯れ枝にくっつくのを。赤に黄色に染め抜かれた葉が緑色に戻るのを。
ついでに頬にためたはずのどんぐりがなくなり、リスは慌てて巣に戻ろうとする。すると掘ったはずの穴倉がもはやない。
翡翠の天蓋がまたひっこみ、冬の枯れ枝へ。そしてまた秋へ。森はめまぐるしくその姿を変えた。
リスはもう、どうしようもなく身をこわばらせる。
「おやおや。歪に巻き込まれたものがいるよ」
ふとその体を何かにつままれる。
「――安心するがいい。この時代も、きっと、おまえには住みよいだろうから」
大きな体のへんな生き物は、何もせずリスを地に下ろしてやると、すたすたとどこかへ行ってしまう。
リスはしばらく呆然と硬直していたが、やがてまた、地を踏みしめちょろちょろと走り出す。
森はすでに、元の静寂を取り戻していた。
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少年は動かずただずうっとその花を見つめ続けていた。何らかの思い入れがあるらしかった。いよいよ手を伸ばして花びらを捕まえ、茎に手をかけようとする。
「やめなさい。お花がかわいそうでしょう」
少年はきょとんとして声の主を振り返る。行き場を失くした指で未練がましくそれを撫でた。
「なぜ」
なぜかわいそうなの、と言いたいらしかった。お花はとって帰ると、すぐ枯れてなくなってしまうんだよ、だから、君がこの花を好きなら、こうやってまた見に来ればいい。お花もそのほうが嬉しいでしょう、君もそのほうが長い間この花を見ていられる。告げるとゆるりとうなずいた。
けれど、次の朝には少年はその花を摘んで帰ってきた。日がな一日そばにおいて、とうとう翌日には花は色を失くしてしまっていた。少年は何も言わず空虚な目でそれを見つめていた。悪いことをした、というようなことをつぶやいた。
それでも明くる日にはまた新しい花を摘んで枯らすのだった。そうせずにはおられぬらしかった。そうしてあの空虚な目で花の残骸を見つめるのだった。誰がどれだけ言って聞かせようと、いつまでもいつまでも繰り返した。
「やめなさい。お花がかわいそうでしょう」
少年はきょとんとして声の主を振り返る。行き場を失くした指で未練がましくそれを撫でた。
「なぜ」
なぜかわいそうなの、と言いたいらしかった。お花はとって帰ると、すぐ枯れてなくなってしまうんだよ、だから、君がこの花を好きなら、こうやってまた見に来ればいい。お花もそのほうが嬉しいでしょう、君もそのほうが長い間この花を見ていられる。告げるとゆるりとうなずいた。
けれど、次の朝には少年はその花を摘んで帰ってきた。日がな一日そばにおいて、とうとう翌日には花は色を失くしてしまっていた。少年は何も言わず空虚な目でそれを見つめていた。悪いことをした、というようなことをつぶやいた。
それでも明くる日にはまた新しい花を摘んで枯らすのだった。そうせずにはおられぬらしかった。そうしてあの空虚な目で花の残骸を見つめるのだった。誰がどれだけ言って聞かせようと、いつまでもいつまでも繰り返した。